有料職業紹介事業を始める場合、「求人企業や求職者からの申し込みを自由に断ることはできるのか」「特定の業種や地域に限定して人材紹介を行うことは可能なのか」という疑問を持たれる方も多いと思います。
職業安定法では、職業紹介事業者に対して、求人及び求職の申し込みを原則として受理する義務を定めています。
ただし、すべての申し込みを無条件に受け付けなければならないわけではありません。また、一定の手続きを行うことで、紹介する職種や地域などを限定することもできます。
今回は、有料職業紹介事業における求人・求職の受理義務、求人不受理制度、取扱職種や地域の範囲について、2026年10月時点の制度に基づいて解説します。
1.求人の申し込みは原則として受理しなければならない
職業安定法第5条の6では、職業紹介事業者は求人の申し込みを原則としてすべて受理しなければならないと定めています。
つまり、求人企業から人材紹介の申し込みがあった場合、原則としてこれを受け付ける必要があります。
ただし、求人を受理することと、実際に人材を紹介できることは別です。
例えば、求人を受け付けたものの、その企業が求める条件に合う求職者が登録されていない場合には、結果として紹介に至らないこともあります。
求人の受理義務があるからといって、必ず候補者を見つけて紹介しなければならないという意味ではありません。
2.求人の申し込みを断ることができる6つの場合
職業安定法第5条の6第1項では、一定の場合に求人の申し込みを受理しないことが認められています。
主な内容は、次の6つです。
- ① 法令に違反する求人:求人の内容自体が法令に違反している場合
- ② 労働条件が著しく不適当な求人:賃金、労働時間その他の労働条件が通常の労働条件と比べて著しく不適当な場合
- ③ 一定の労働関係法令違反がある求人者:法令で定められた違反について、一定の処分・公表等の措置を受けた求人者からの申し込み
- ④ 必要な労働条件等を明示しない求人:法令上必要な労働条件等の明示が行われない場合
- ⑤ 暴力団員等からの求人:暴力団員、役員に暴力団員がいる法人、暴力団員が事業活動を支配する者からの申し込み
- ⑥ 必要な報告に応じない求人者:求人不受理事由に該当するか確認するための報告の求めに、正当な理由なく応じない場合
例えば、提示された賃金が最低賃金を下回っている求人や、法令上必要な労働条件を明示しない求人については、受理しないことができます。
また、労働関係法令違反による不受理は、単に過去に違反があったというだけで一律に判断されるものではなく、対象となる法令や処分・公表の状況、違反の是正状況、所定の期間などによって判断されます。
なお、これらの事由に基づいて求人を受理しない場合には、求人者に対して、その理由を説明する必要があります。
3.2026年10月改正の求人不受理制度で注意したいこと
2026年10月1日から、職業紹介事業の業務運営要領が改正されています。
今回の改正は、カスタマーハラスメント対策や求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策に関する法改正の施行に伴うものです。
これにより、求人不受理の判断対象となる労働関係法令の規定が追加・整理され、求人企業に確認する自己申告書の様式例も変更されました。
ただし、ハラスメントに関する問題が発生した会社の求人を、すべて受理してはならないという意味ではありません。
対象法令違反について所定の処分・公表等が行われ、法令上の条件に該当するかどうかを確認する必要があります。
求人企業からの自己申告が重要
職業紹介事業者は、求人の申し込みを受ける際、原則として求人者に対し、求人不受理事由に該当するかどうかの自己申告を求めることとされています。
特に、一定の労働関係法令違反や暴力団員等への該当性については、求人内容だけでは判断できないため、求人企業への確認が重要になります。
自己申告の内容を後から確認できるよう、書面や電子メールなど、記録の残る方法で確認することが望ましいとされています。
また、原則として求人の申し込みごとに確認を行う必要があります。
2026年10月の改正により自己申告書の様式例が更新されているため、これから職業紹介事業を始める場合は、最新の制度に対応した書式や業務手順を準備することが重要です。
4.求職者からの申し込みも原則として受理する
職業安定法第5条の7では、求職者からの申し込みについても、原則としてすべて受理しなければならないと定めています。
ただし、求職の申し込み内容が法令に違反する場合には、これを受理しないことができます。
また、求職の申し込みを受理しない場合には、求職者に対してその理由を説明する必要があります。
ここで注意したいのは、求人の場合と同様、求職の申し込みを受理することと、必ず就職先を紹介することは別であるという点です。
求職者の希望条件に合う求人がない場合や、求職者の能力・経験と求人企業の条件が一致しない場合には、結果として紹介に至らないこともあります。
また、取扱職種の範囲等を適法に限定して届け出ている場合には、求人・求職の受理義務はその範囲内で適用されます。
5.取扱職種を限定して人材紹介を行うことは可能
有料職業紹介事業では、原則として幅広い職業を取り扱うことができます。ただし、建設業務や港湾運送業務など、法律上紹介が禁止されている職業については取り扱うことができません。
詳しくは、「有料職業紹介事業で紹介できない職種」をご覧ください。
一方、職業安定法第32条の12では、職業紹介事業者が取り扱う職種の範囲等を定め、届け出ることを認めています。
例えば、次のような事業形態が考えられます。
- 事務職を専門とする人材紹介事業
- 飲食物調理の職業を専門とする人材紹介事業
- 一定の管理職・役員等を対象とする人材紹介事業
- 特定の賃金水準以上の求人を取り扱う人材紹介事業
このように、専門分野を明確にした職業紹介事業を行うことも可能です。
ただし、単にホームページで「事務職専門」「管理職専門」などと表示するだけでは、法律上の取扱職種の範囲を限定したことにはなりません。
求人・求職の受理義務が適用される範囲を限定するには、所定の届出を行う必要があります。
6.取扱地域を愛知県などに限定することもできる
取扱職種だけでなく、職業紹介を行う地域の範囲を限定することも可能です。
例えば、全国を対象にするのではなく、愛知県を中心とした地域密着型の職業紹介事業を計画している場合などです。
実際に取扱地域を限定する場合は、所定の届出を行い、対象地域を明確にする必要があります。
なお、愛知県に事務所があるからといって、必ず取扱地域を愛知県に限定しなければならないわけではありません。
愛知県の事務所から全国の求人企業や求職者を対象に職業紹介事業を行うことも可能です。
ただし、国外にわたる職業紹介を行う場合は、相手先国に関する届出や外国の法令への対応など、別の注意点があります。
7.取扱職種・地域を限定するメリットとデメリット
当事務所でも、職業紹介事業の許可申請を代行する際、取扱職種や取扱地域を限定するかどうかについて、ご相談いただくことがあります。
実務上は、あえて取扱職種を限定せず、幅広い求人・求職の申し込みを受け付けられる状態で許可を取得するケースも少なくありません。
ただし、事業内容によっては、取扱範囲を限定することにもメリットがあります。
| 比較項目 | 取扱範囲を限定しない | 取扱範囲を限定する |
|---|---|---|
| 対象となる求人・求職 | 原則として広い範囲 | 届け出た範囲内 |
| 新しい分野への展開 | 比較的柔軟 | 範囲の変更時に届出が必要 |
| 専門性の明確化 | 幅広い事業展開に向く | 専門分野を明確にしやすい |
| 求人・求職の受理義務 | 原則として広く適用 | 届け出た範囲内で適用 |
例えば、将来的に複数の業界へ事業を拡大する予定がある場合には、最初から取扱範囲を限定しない方が柔軟に対応しやすいことがあります。
一方、特定業界の専門知識や求人企業とのネットワークを強みとする事業では、取扱範囲を限定することも選択肢となります。
なお、取扱範囲の限定は、不当な差別的取扱いとなる内容であってはなりません。
したがって、単に事業者の都合だけで自由に対象者を排除できる制度ではない点にも注意が必要です。
8.許可申請時に取扱職種の範囲を決めておくべきか
これから有料職業紹介事業を始める場合には、許可申請の準備段階で、どのような職業や地域を対象に事業を行うのかを検討しておくことが重要です。
取扱職種の範囲等を定める場合は、新規許可申請と併せて所定の届出を行うことができます。
一方、特に限定する必要がなければ、あえて範囲を狭めずに事業を開始する方法もあります。
ただし、取扱範囲を限定しないことと、実際の事業内容を決めずに申請してよいことは別です。
許可申請では、事業計画や業務運営体制の整合性も重要になるため、事業開始後にどのような求人企業・求職者を対象とするのか、あらかじめ整理しておくことをおすすめします。
9.よくあるご質問
Q.求人企業からの申し込みは必ず受け付けなければなりませんか?
原則として受理する義務があります。ただし、法令違反の求人、労働条件が著しく不適当な求人、一定の法令違反がある求人者からの申し込みなど、法律で定められた場合には受理しないことができます。また、取扱職種等を届け出て限定している場合は、その範囲内で受理義務が適用されます。
Q.求人を受け付けたら、必ず求職者を紹介しなければなりませんか?
いいえ。求人を受理しても、条件に合う求職者がいなければ、結果として紹介できない場合があります。求人の受理義務は、必ず採用につなげる義務を意味するものではありません。
Q.医療職や管理職など、特定の職種だけを紹介することはできますか?
可能です。取扱職種の範囲等を定め、所定の届出を行うことで、一定の職種に限定した職業紹介事業を行うことができます。ただし、法令上紹介が禁止されている職業を取り扱うことはできません。
Q.愛知県内の求人だけを取り扱うことは可能ですか?
可能です。取扱地域を限定する場合には、対象地域を定めて所定の届出を行う必要があります。ただし、将来的な事業展開も考慮して、限定するかどうかを検討することが重要です。
Q.求人企業からの自己申告書は、許可申請時に必要ですか?
求人不受理事由に関する自己申告は、主に許可取得後、求人企業から求人の申し込みを受ける際の業務運営に関するものです。許可申請時に提出する書類と混同しないようにしましょう。事業開始までに、最新の制度に対応した確認方法や書式を準備する必要があります。
愛知県で有料職業紹介事業を始める方へ
有料職業紹介事業では、許可を取得するだけでなく、求人・求職の受理、求人不受理制度への対応、個人情報の管理、手数料の取扱いなど、事業開始後もさまざまな法令上のルールを守る必要があります。
また、取扱職種や地域の範囲は、将来的な事業展開にも関係するため、許可申請前の段階で検討しておくことが大切です。
当事務所では、愛知県の有料職業紹介事業許可申請に特化し、許可要件や事業内容の確認から、申請書類の作成・提出、実地調査への対応までサポートしています。
これから人材紹介事業を始める方は、ぜひ初回無料面談をご利用ください。
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※本記事は2026年10月時点の職業安定法および関係法令、職業紹介事業の業務運営要領に基づく一般的な解説です。個別の求人不受理事由の該当性や取扱範囲の届出については、具体的な事情に応じた確認が必要です。