有料職業紹介事業を行う場合、求人企業から受け取った求人条件を、求職者に正確に伝える必要があります。
職業安定法第5条の3では、職業紹介事業者が求職者に対して労働条件等を明示すること、また、求人企業が職業紹介事業者に対して労働条件等を明示することを定めています。
特に注意したいのが、労働条件を明示する方法、明示する時期、明示すべき項目です。
2024年4月には明示事項が追加され、仕事内容や勤務地については、雇入れ直後の内容だけでなく、将来の変更の範囲についても明示することになりました。
ここでは、2026年10月時点の制度に基づき、有料職業紹介事業における労働条件の明示ルールを具体的に解説します。
1.職業紹介事業者には労働条件の明示義務がある
有料職業紹介事業では、求人企業と求職者の間で雇用契約が成立するようにあっせんを行います。
求職者が就職先を検討するためには、仕事内容、勤務地、賃金、労働時間などの条件を正確に把握していることが必要です。
そのため、職業安定法第5条の3では、求人企業と職業紹介事業者の双方に、労働条件等の明示義務を定めています。
- 求人企業:求人の申し込みに際して、職業紹介事業者に労働条件等を明示する。
- 職業紹介事業者:求職者に対して、紹介する求人の労働条件等を明示する。
つまり、求人企業から聞いた条件を曖昧なまま伝えるのではなく、必要な項目を確認し、求職者が理解できる形で明示することが重要です。
また、求人企業の説明に不明確な部分がある場合には、そのまま求職者へ伝えるのではなく、内容を確認しておく必要があります。
2.労働条件の明示は書面・FAX・メールなどで行う
労働条件等の明示は、原則として次の方法により行います。
- 書面を直接交付する方法
- 書面を郵送する方法
- FAXを利用する方法
- 電子メール等を利用する方法
ただし、FAXや電子メール等を利用する場合には、明示を受ける相手方がその方法を希望していることが必要です。
また、FAXや電子メール等については、受信者がその記録を出力して書面を作成できるものでなければなりません。
このように、現在は紙の書類を直接渡す方法だけが認められているわけではありません。
FAXでの明示も認められる
以前は、労働条件の明示についてFAXを利用できないと説明されることもありましたが、現在の職業紹介事業の業務運営要領では、FAXによる明示も認められています。
ただし、相手方がFAXによる方法を希望していることが必要です。
メールやLINEでも明示できる?
電子メールによる明示も、相手方が希望する場合には認められています。
さらに、電子メール等には、LINEなどのSNSのメッセージ機能を利用した通信も含まれます。
ただし、求職者が受け取った内容を保存し、必要に応じて印刷できることが必要です。
例えば、求人条件をPDFファイルにまとめてメールに添付する方法であれば、内容を確認・保管しやすくなります。
一方、一定時間が経過すると内容が消えるような方法など、求職者が後から確認できない方法は適切とはいえません。
また、どの電子的な明示方法を希望するのかについても確認し、後から明示内容を確認できるよう記録を残しておくことをおすすめします。
3.労働条件の明示方法を比較
| 明示方法 | 取扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 紙の書面を直接交付 | 可能 | 必要事項を記載して交付する |
| 郵送 | 可能 | 相手方に届くよう送付する |
| FAX | 条件付きで可能 | 相手方の希望があり、印刷できること |
| 電子メール | 条件付きで可能 | 相手方の希望があり、保存・印刷できること |
| LINE等のメッセージ | 条件付きで可能 | 相手方の希望があり、保存・印刷できること |
| 電話による口頭説明のみ | 原則として不可 | 緊急時の例外的な取扱いを除き、所定の方法で明示する必要がある |
なお、職業紹介の実施について緊急の必要があり、あらかじめ所定の方法で明示できない場合には、例外的な取扱いが認められることがあります。
ただし、通常の職業紹介業務において、単に電話で求人条件を説明するだけでよいという意味ではありません。
4.求職者に明示すべき労働条件とは
職業紹介事業者が求職者に明示すべき主な事項は、次のとおりです。
- ① 業務の内容:従事する業務の内容及び業務の変更の範囲
- ② 労働契約の期間:期間の定めの有無、期間の定めがある場合はその期間
- ③ 試用期間:試用期間の有無、試用期間がある場合はその期間
- ④ 有期労働契約の更新基準:更新の判断基準、通算契約期間や更新回数の上限がある場合はその内容
- ⑤ 就業場所:雇入れ直後の就業場所及び就業場所の変更の範囲
- ⑥ 労働時間・休日:始業及び終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日
- ⑦ 賃金:賃金の額など
- ⑧ 社会保険・労働保険:健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険の適用に関する事項
- ⑨ 雇用主:労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称
- ⑩ 派遣労働者としての雇用:派遣労働者として雇用する場合はその旨
- ⑪ 受動喫煙防止措置:就業場所における受動喫煙を防止するための措置
なお、有期労働契約の更新基準は、更新する可能性のある有期労働契約について明示する事項です。また、派遣労働者として雇用する旨については、そのような求人の場合に限られます。
職業紹介事業者は、求人企業からこれらの情報を正確に収集し、求職者に明示する必要があります。
5.2024年4月から追加された労働条件の明示事項
2024年4月1日から、職業紹介事業者が求職者に明示すべき労働条件に、次の事項が追加されました。
- 従事すべき業務の変更の範囲
- 就業場所の変更の範囲
- 有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間又は更新回数に上限がある場合はその上限を含む)
業務内容の変更の範囲
従来は、主に雇入れ直後に従事する業務の内容を明示していましたが、現在は労働契約期間中に変更される可能性のある業務の範囲も明示する必要があります。
例えば、入社直後は営業職であっても、将来的に人事・総務・企画業務などに配置転換される可能性がある場合は、契約上予定される変更の範囲を明確にする必要があります。
ただし、具体的に想定されていないすべての将来の業務まで明示する必要があるわけではありません。
就業場所の変更の範囲
就業場所についても、入社直後の勤務先だけでなく、将来の転勤や配置転換によって勤務する可能性のある場所の範囲を明示する必要があります。
例えば、名古屋市内の事業所で採用する場合でも、愛知県内の他の事業所への転勤が予定されているのであれば、その変更の範囲を確認することが重要です。
なお、有期労働契約の場合の変更の範囲は、その契約期間中の変更を対象とするものであり、更新後の契約期間における変更まで含めるものではありません。
有期労働契約の更新基準
有期労働契約で更新の可能性がある場合には、更新の判断基準も明示する必要があります。
例えば、勤務成績、勤務態度、能力、会社の経営状況などを更新判断の基準とする場合には、その内容を具体的に示すことが望まれます。
また、通算契約期間や更新回数に上限が設けられている場合には、その上限も明示する必要があります。
このように、2024年4月以降は、求人企業から従来より詳しい労働条件を確認する必要があります。
6.労働条件はいつまでに求職者へ明示する必要があるか
労働条件等の明示は、可能な限り速やかに行う必要があります。
厚生労働省の業務運営要領では、原則として、職業紹介事業者が求職者と最初に接触する時点までに、業務内容等を明示することとされています。
ここでいう「最初に接触する時点」とは、面接、メール、電話などによって職業紹介事業者と求職者との間で意思疎通が行われる時点を指します。
ただし、面接の日程調整に関する連絡だけの場合などは除かれます。
例えば、求職者に求人企業の紹介を行うために面談するのであれば、面談の際に初めて労働条件を曖昧に説明するのではなく、必要な情報を整理しておくことが重要です。
なお、やむを得ず労働条件の一部を別途明示する場合には、その旨も併せて明示する必要があります。
7.固定残業代がある求人では特に注意が必要
有料職業紹介事業の運営で、特に注意したいのが固定残業代を含む求人です。
例えば、求人票に「月給30万円(固定残業代を含む)」とだけ記載されている場合、それだけでは明示内容として不十分です。
固定残業代を採用している場合には、名称にかかわらず、次の事項などを明示する必要があります。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代の計算方法
- 固定残業代の対象となる労働時間数
- 固定残業代として支払われる金額
- 固定残業時間を超える時間外労働等について、割増賃金を追加で支払うこと
固定残業代の明示例
例えば、実際の賃金制度が次の内容である場合には、基本給と固定残業代を分けて明示します。
月給300,000円
基本給:250,000円
固定残業代:50,000円(時間外労働○時間分)
固定残業時間を超える時間外労働等については、法定の割増賃金を追加で支給します。※上記は表示形式の例です。固定残業時間は実際の計算根拠に基づいて記載する必要があります。
固定残業時間については、実際の賃金計算に基づいた正しい時間数を表示しなければなりません。
求人票の見栄えをよくするために、基本給と固定残業代を合算した金額だけを強調するような説明は避ける必要があります。
職業紹介事業者は、求人企業から受け取った賃金情報について、固定残業代の内容が明確になっているか確認することが重要です。
8.裁量労働制や試用期間がある場合も注意
裁量労働制を適用する求人
専門業務型裁量労働制や企画業務型裁量労働制が適用される求人については、その旨や適用する制度、みなし労働時間などを明示する必要があります。
また、求人企業において必要な労使協定や労使委員会の決議などの手続きが行われているかも確認する必要があります。
単に「裁量労働制のため勤務時間は自由」と説明すればよいわけではありません。
試用期間中の労働条件
試用期間がある場合には、その有無や期間を明示する必要があります。
また、試用期間中と試用期間終了後で仕事内容や賃金などが異なる場合には、それぞれの労働条件を明示する必要があります。
例えば、試用期間中だけ賃金が低く設定されている場合には、採用後の賃金だけを記載するのではなく、試用期間中の賃金についても正確に示す必要があります。
9.紹介した求人の労働条件が変更された場合
求職者へ労働条件を明示した後に、求人企業側の事情によって条件が変更される場合があります。
例えば、当初は月給25万円と説明していたものの、採用選考の結果、月給23万円で雇用契約を締結することになった場合などです。
このような場合には、変更された労働条件について適切に明示する必要があります。
職業安定法第5条の3では、求人企業が当初明示した労働条件を変更、特定、削除、追加する場合の明示義務についても定めています。
例えば、次のようなケースが考えられます。
- 当初の求人条件よりも賃金額が低くなる場合
- 勤務地が当初の説明から変更される場合
- 正社員予定だったものが有期契約に変更される場合
- 当初の賃金の幅が、採用時に具体的な金額へ確定する場合
- 当初明示していなかった労働条件が追加される場合
変更等の明示は、求職者が労働契約を締結するかどうか十分に検討できるよう、可能な限り速やかに行うことが重要です。
また、変更があった部分を比較できる形で書面等に示すことが望まれます。
職業紹介事業者側でも、求人条件に変更が生じたことを把握した場合には、求職者に誤った情報が伝わらないよう、速やかな確認や情報の更新が必要です。
10.求人企業から労働条件を確認する際の実務上の注意点
有料職業紹介事業を始める場合、求人企業からの求人受付時に、必要な労働条件を確認できる仕組みを整えておくことをおすすめします。
例えば、次のような事項に注意する必要があります。
- 求人企業から必要な労働条件が漏れなく提示されているか
- 仕事内容や勤務地の変更の範囲が明示されているか
- 有期契約の更新基準が明確になっているか
- 固定残業代の内訳が正しく表示されているか
- 試用期間中の労働条件が明確になっているか
- 求人条件と実際の採用条件に相違がないか
- 求職者へ明示した内容を後から確認できるか
特に、求人企業から受け取った求人票をそのまま利用する場合には、必要な事項が漏れていないか確認する必要があります。
また、求人内容に法令違反が疑われる場合には、条件の修正を求めるなど、適切な対応が必要になることがあります。
求人の受理義務や不受理制度については、「求人及び求職の申し込みと取扱職種の範囲」でも解説しています。
11.よくあるご質問
Q.労働条件の明示はFAXでも認められますか?
はい。2026年10月時点の制度では、相手方がFAXによる明示を希望し、受信した記録を書面として出力できる場合には、FAXによる明示も認められています。
Q.労働条件をLINEで送っても問題ありませんか?
相手方がその方法を希望しており、受信した内容を保存・印刷できるなど、法令上の条件を満たす場合には認められます。ただし、後から内容を確認できる方法で明示することが重要です。
Q.電話で労働条件を説明するだけでもよいですか?
原則として、電話による口頭説明だけでは足りません。書面の交付や、相手方が希望するFAX・電子メール等によって明示する必要があります。緊急の必要がある場合には例外的な取扱いがあります。
Q.仕事内容や勤務地の変更の範囲も明示する必要がありますか?
はい。2024年4月1日から、業務の変更の範囲及び就業場所の変更の範囲が明示事項に追加されました。雇入れ直後の内容だけでなく、労働契約期間中に予定される変更の範囲についても確認が必要です。
Q.固定残業代を含む月給を、そのまま求人票に記載してもよいですか?
月給の総額だけでは不十分です。固定残業代を除いた基本給、固定残業代の金額・対象時間数・計算方法、超過分の割増賃金を追加支給することなどを明示する必要があります。
Q.採用時に求人票と異なる賃金になった場合はどうすればよいですか?
当初明示した労働条件を変更・特定する場合には、法令に従ってその内容を適切に明示する必要があります。求職者が変更内容を理解し、労働契約を締結するかどうか検討できるようにすることが重要です。
愛知県で有料職業紹介事業の許可申請をお考えの方へ
有料職業紹介事業では、許可取得後も職業安定法に基づくさまざまな業務運営上のルールを守る必要があります。
特に労働条件の明示は、求人企業と求職者との認識の違いや、採用後のトラブルを防止するうえでも重要です。
当事務所では、愛知県の有料職業紹介事業許可申請に特化し、許可要件の確認から申請書類の作成・提出、実地調査への対応までサポートしています。
これから人材紹介事業を始める方には、許可申請の準備だけでなく、事業開始後に注意すべき基本的な運営ルールについてもご案内しています。
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紹介事業の運営① 差別的な取り扱いの禁止 / 求人及び求職の申し込みと取扱職種の範囲 / 有料職業紹介事業の許可要件一覧 / 申請代行の料金・サービス内容
※本記事は2026年10月時点の職業安定法、職業安定法施行規則、職業紹介事業の業務運営要領及び関係指針に基づく一般的な解説です。具体的な求人条件や明示方法については、個別の事情に応じた確認が必要です。